過払い金|新羅会館家族亭の乗っ取り事件

1,72
昭和
61

主文

1原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1被告Aは、原告に対し、金5178万5066円及びこれに対する平成11年3月16日(最終不法行為日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告大榮ハウス株式会社は、原告に対し、金1351万9940円及びこれに対する平成14年2月1日(最終利得日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告大榮ハウス株式会社は、「新羅会館家族亭」及び「新羅会館」の商号を使用してはならない。

第2事案の概要

本件は、被告Aの欺罔行為により、金銭を詐取され、原告の経営していたレストラン(商号)「新羅会館家族亭」を同被告が当時代表取締役であった被告大榮ハウス株式会社に乗っ取られたとして、原告が、被告Aに対し、民法709条に基づく損害賠償(請求の第1項)を請求するとともに、被告大榮ハウス株式会社に対し、民法704条に基づく不当利得の返還(請求の第2項)と商法20条に基づく同一又は類似の商号使用の差止め(請求の第3項)を請求した事案である。
(略称)被告A―「被告A」
被告大榮ハウス株式会社―「被告会社」
B―「B」
C―「C」
別紙「不動産売買契約書」添付の物件目録記載の不動産―「本件不動産」(前提となる事実)
1(1)原告は、大阪市中央区において、焼肉レストラン「新羅会館家族亭」を経営していた。
原告は、本件(後記2の契約締結)当時、約22億円の債務を負担していた(乙6、7の1)。
Cは、原告が代表者であった会社(株式会社トレビ)の取締役であった(甲1)。
(2)被告会社は、平成元年7月20日、不動産の売買及び仲介業等を目的として成立した株式会社である(甲2、乙4の1、2)。
被告Aは、平成11年1月29日、被告会社の代表取締役に就任し、同年11月4日、これを辞任した(甲2)。
(3)Bは、本件当時、弁護士事務所の事務局に勤務していた(甲41、証人B)。
2原告は、平成11年2月27日、被告会社との間で、
(1)新羅会館家族亭の営業について、別紙「営業譲渡契約書」記載の営業譲渡契約を締結した(甲8)。
(2)本件不動産について、別紙「不動産売買契約書」記載の売買契約を締結した(甲29)。
3(1)原告は、被告A又は被告会社に対し、次のとおり、合計5578万5066円を支払った(後記アないしウについては、本件不動産の所有権移転登記手続費用の名目であることにつき当事者間に争いがない。)。
ア平成11年3月1日被告会社に対し500万円
イ平成11年3月3日被告会社に対し750万円
ウ平成11年3月11日被告会社に対し100万円
エ平成11年3月12日被告Aに対し1500万円
オ平成11年3月16日被告会社に対し2728万5066円
(2)被告A又は被告会社は、原告に対し、原告の生活費の名目で、次のとおり、合計400万円を支払った。
ア平成11年4月8日 100万円(乙46の23)
イ 平成11年5月7日 100万円(乙46の27)
ウ 平成11年6月8日 100万円(乙46の28)
エ 平成11年7月7日 100万円(乙46の28)
4「新羅会館家族亭」の商号について、
(1)原告は、大阪市中央区において、「新羅会館家族亭」の商号につき自己を商号使用者として登録していたが、平成11年3月3日、Bに対し、同年2月27日付け譲渡を原因とする商号移転登記手続をした(甲23)。
(2)原告は、平成12年8月22日、Bから、同月17日付け譲渡を原因とする商号移転登記手続を受けた(甲4)。
(争点)
1 被告Aの行為の違法性及び被告会社の法律上の原因の有無(被告Aの原告に対する詐欺)
(原告の主張)
(1)被告Aは、原告がその債務返済に苦慮していることを奇貨として、新羅会館家族亭を乗っ取ることを企て、原告債権者と交渉する意思がないにもかかわらず、平成11年2月ころ、原告に対し、「このままでは新羅会館家族亭を債権者に取られてしまう。
私(被告A)が債権者と交渉し、新羅会館家族亭を原告に残してやる。
その交渉のために必要だから、不動産所有権移転登記料名目で1350万円、新羅会館家族亭が営業していたダイヤモンドビルの保証金名目で2728万5066円を被告会社に、新羅会館家族亭の運転資金名目で1500万円を被告Aに渡せ。
事態が落ち着いて名義を戻すまで毎月100万円の生活費を補償する。
原告の債権者との交渉のために必要だから、新羅会館家族亭の営業名義を被告会社に移せ。
和解交渉がうまくいったら、同名義を原告に戻す。」などと言って、原告を欺罔した。被告Aの欺罔を基礎づける次のような事実もあった。
ア別紙「営業譲渡契約書」記載の営業譲渡契約及び別紙「不動産売買契約書」記載の売買契約の締結という方法は、被告A自身が決定した。
イ前記アの契約締結の前後において、被告Aの原告に対する言動が豹変した。
ウ被告Aは、原告からの申出にもかかわらず、債務整理解決後の報酬や新羅会館家族亭の返還方法についての文書作成を拒んだ。
エ被告Aは、平成11年6月末又は7月ころ、原告からの清算の申出に対し、「1億5000万円を支払え。」と理不尽な請求をした。
オ被告Aは、平成12年9月ころ、Bからの和解提案にもかかわらず、合理的な理由もなく、これを拒否し、平成13年2月の原告代理人弁護士からの内容証明郵便による話し合いの呼びかけにも全く応じなかった。
カ被告Aは、原告の債務整理が終了していないにもかかわらず、原告及びBに対し、「仕事は終わった。」と発言した。
キ被告Aは、新羅会館家族亭内に設置されたカラーコピー機のリース料を全く支払っていなかった。
(2)前記前提となる事実2の契約締結及び同3(1)の支払は前記(1)の被告Aの欺罔によるものである。
(3)原告は、被告会社代表者である被告Aに対し、
ア平成11年6月末又は7月初めころ、口頭で、
イ平成13年2月8日到達の内容証明郵便(甲9の1、2)をもって、同被告の詐欺を理由として前記前提となる事実2の契約を取り消すとの意思表示をした。
(被告らの主張)
(1) 被告Aによる欺罔の事実は否認する。
本件は、原告が債権者からの責任追及を逃れるために自ら発案したものにすぎず、原告・被告ら間には有効な経営委託契約が成立している。
平成11年3月12日付け1500万円は、原告が負担すべきである新羅会館家族亭の平成11年2月末までの取引先等への支払と被告会社の本件不動産取得税支払分として受領したものである。
平成11年3月16日付け2728万5066円も、原告債権者との交渉、和解のための費用として受領したものであり、実際上も、被告会社は、原告債権者と和解交渉を重ね、株式会社整理回収機構に2228万円(原告の生活費の既払額を控除した金額)を支払ったり、幸福銀行に対し、3000万円の和解金の提案をしたこともある。
(2) 原告の主張(2)は否認する。
(3)原告の主張(3)アは否認する。同イは認める。
2原告の損害
(原告の主張)
(1)被告Aの詐欺により原告の被った損害は5178万5066
円(55,785,066―4,000,000)である。
(2)被告Aの主張(2)は否認する。
(被告Aの主張)
(1)原告の主張(1)は否認する。
(2)被告Aは、平成11年8月7日、原告に対し、原告の毎月の生活費の名目で100万円を(Cを通じて)別途支払った。
3原告の損失及び被告会社の利得
(原告の主張)
(1)新羅会館家族亭の営業による平成7年から同10年までの月額平均収入は38万6284円であった。
(2)被告会社は、平成11年3月1日から同14年1月31日までの間(35か月間)、新羅会館家族亭を営業し、その売上金を悪意で取得している。
(3)前記(2)の期間における原告の損失及び被告会社の利得は1351万9940円(386,284×35)である。
(被告会社の主張)
(1)原告の主張(1)は知らない。
(2)原告の主張(2)のうち、被告会社による新羅会館家族亭の営業の事実は認めるが、その余の事実は否認する。
(3)原告の主張(3)は否認する。
4商号使用差止めの可否
(原告の主張)
(1)原告は、「新羅会館家族亭」の商号を第三者から譲り受け、昭和61年5月から平成11年11月まで、これを使用して焼肉レストランを営業していた。
(2)被告会社は、不正の競争の目的をもって、「新羅会館家族亭」及びこれと類似する「新羅会館」の商号を使用して、焼肉レストランを営業している。
(被告会社の主張)
(1) 原告の主張(1)のうち、原告が「新羅会館家族亭」の商号を有することは認める。
しかし、「新羅会館家族亭」の商号は、E又はF名義でチェーン店名化されて広く使用されており、原告だけの唯一独立した商号ではない。
(2)原告の主張(2)のうち、被告会社が不正の競争の目的を有すること、被告会社が「新羅会館家族亭」の商号を使用していること及び「新羅会館」の商号が「新羅会館家族亭」に類似することはいずれも否認する。
また、これらの商号使用の問題は、前記経営委託契約の清算と軌を一つにするものである。

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第3判断

1前記前提となる事実に証拠(甲27、28、41、乙18、27、45の1ないし36、46の1ないし39、47の1ないし28のほか後掲各書証、証人B、原告、被告A)を総合すれば、次の各事実が認められ、証人B、原告の各供述中、この認定に反する部分はいずれも信用することができない。
(1)被告Aは、第1種電気工事士や2級電気工事施工管理技士の資格(乙2の1、2)を有し、株式会社日栄電気工業の代表取締役(乙1の1、2)として、電気設備工事の設計施工及び監理等を本業としていた。
被告Aにおいて、平成元年4月26日、宅地建物取引主任者の資格を取得し(乙5)、同年7月20日には、不動産の売買及び仲介業等を目的とする被告会社が設立された(乙4の1、2)ものの、本件以前には、同社は全く活動しておらず(甲3)、被告A自身も、同社の代表取締役はもとより平取締役に直ちに就任することもなかった(乙4の1)。
(2)原告は、平成10年3月末ころ、これまで面倒をみてきた被告Aに対し、自らの債務処理について相談をもちかけてきた。
原告によれば、その負担する債務総額は平成10年2月末時点で21億円以上もあり、その約定元利払金額が月額1806万円にも達していたのに対し、実際の支払額は155万円にすぎないという債務超過の状況であった(乙6)。
被告Aとしては、原告のために、2000万円もの借入れの連帯保証を行う(乙44)など、従前から原告と親密な関係にあったとはいえ、異業種である原告の事業経営を判断する能力はもとより、原告の窮状を救済するほどの資力や資金繰りの方策もおよそなかったことから、公認会計士を紹介しようとするにとどまった。
被告Aの紹介に係る公認会計士は、平成10年5月6日、原告に対し、建て直しは不可能であり、自己破産して再出発するのが望ましい旨を勧告したが、原告は、自己の全財産を清算することを嫌い、破産は絶対にしない意思を被告Aに伝えた。
(3)原告は、平成10年10月ころ、被告Aに対し、本件について「財産を守りたい。
力を貸してほしい」などと再び懇願してきた。
原告のいう「財産を守りたい」とは、原告債権者と交渉の上、本件不動産を原告のもとにできる限り残し、新羅会館家族亭を原告債権者の眼から外させるというものであった。
被告Aは、原告の依頼に応えるだけの知識も能力もないとして、断り続けてきたものの、原告から繰り返し懇願されるに至り、ようやく原告に協力する気になった。
もっとも、同被告としては、具体的な作業手順が不明であったため、法的知識のある人物に相談する必要があると考え、行政・司法書士や弁護士事務所の事務員(B)を原告に紹介することとなった。
このうち、原告の前記意向を聞いたBは、不用意な処理をすれば、債権者、特に整理回収機構や国税当局からの民事刑事の両面にわたる厳しい追及が予想されるとして、当初は強い難色を示していたものの、被告Aからの強い要請があり、原告・被告A間に強い信頼関係があるとのことであったので、最終的にはこれを引き受ける方向で具体的検討を開始した。
Bとしては、被告Aが原告から正当な交渉権限を取得したという外形を作出する必要があるものと考えた。
具体的には、被告会社との間で、外形上、1本件不動産について売買契約を締結するほか、2新羅会館家族亭についても営業譲渡契約を締結し、債権者の責任追及が止むまで、その経営を被告Aに委ねるというものであった。
Bは、平成11年2月23日、「(手順)」及び「日程表」と題する書面(乙7の1、2)をそれぞれ作成し、原告及び被告Aに対し、今後の進行や具体的方法を指示説明するなどした。
(4)原告・被告会社間における平成11年2月27日付け別紙「営業譲渡契約書」記載の営業譲渡契約(甲8)及び別紙「不動産売買契約書」記載の売買契約(甲29)の締結は、Bの前記指示説明に従い、前記(3)記載の原告の意向に沿うものであった。
これらに対応する手付金領収書(乙9の1、2)も作成されたが、実質的な金員の授受を伴うものではなかった。
また、本件不動産のうち建物については、原告の家族の住居を確保すべく、原告の子と被告会社との間において、同日、使用貸借契約まで締結されていた(乙10)。
原告・被告A間の内部的な合意としては、平成11年3月1日以降は新羅会館家族亭の経営は被告会社の独立採算制とし、原告の債権者からの責任追及が止むまでこの態勢を維持するというものであったが、同態勢を解消するに際しての清算の具体的な取り決めまではされておらず、原告が被告Aに対し3億円の報酬を支払うと告げたことがある程度であった。
当時の被告Aとしては、原告を深く信頼しており、また、実際問題として原告にそのような大金を支払えるものとも考えていなかったため、自己の報酬に関する書面まで徴求するようなことはせず、これと表裏一体をなす新羅会館家族亭の返還方法についての書面を取り交わすこともしなかった。
(5)前記(4)の合意に従い、原告が被告会社に支払った本件不動産についての登記手続費用名目の金員(前記前提となる事実3(1)アないしウ)は、実際上も、被告会社への所有権移転登記手続費用等に用いられ(甲30ないし40)、平成11年3月12日に被告Aに支払った1500万円(前記前提となる事実3(1)エ)も、新羅会館家族亭の経営について原告の負担とされた平成11年2月末までの支払分と被告会社の不動産取得税支払分に用いられたものであった。
また、被告会社に支払われた2728万5066円(前記前提となる事実3(1)オ)も、原告債権者との交渉や和解のための資金という趣旨でCを通じて同被告が預かっていたものであった。
これに対し、新羅会館家族亭の店舗が存する建物について、賃貸人である不動産会社と被告会社との間の賃貸借契約(乙11の2ないし4)締結に際し必要とされた合計3000万円の保証金の支払(乙11の1、12)は、原告の要請に基づき、被告会社が自ら調達したものであった(なお、原告本人は、自ら出捐した2728万5066円が前記3000万円の保証金に充てられるものであり、和解交渉資金の調達は被告Aが行うと同被告自ら発言していた旨を供述する。
しかし、前記認定のとおり、本件は、原告が被告らに原告債権者との和解交渉を委ねるという趣旨の経営委託契約であって、原告の負担する債務額が極めて多額であったことからすれば、必要とされる和解交渉資金も決して少なくない金額に達すると考えられるところ、被告Aにそのような資金調達が可能であったか、原告がこれを信ずるような事情があったかは疑問であり、Bの描いた手順(乙7の1)にも、このような必要経費は原告の負担とすることとし、被告会社が原告から必要経費として3000万円8000万円の現金を預かる旨が明記されている。
実際にも、前記前提となる事実3(1)アないしウのとおり、被告会社への所有権移転登記手続費用等については原告が資金を拠出しておきながら、(保証金が契約終了時に返還される性質のものであるのに対し)将来の回収見込みが不確実な和解交渉資金のみを一時的にせよ被告らの全額負担とするまでの合意があったとは解されないから、原告本人の前記供述は信用することができない。)。
(6)被告Aは、原告のために、複数の原告債権者との和解交渉を続けていたものの(乙32の1、2、33)、必ずしも功を奏せず、被告会社は、平成11年10月27日、原告債権者の一人であった預金保険機構(株式会社阪和銀行の承継人)から、別紙「営業譲渡契約書」記載の営業譲渡契約に基づく営業譲渡代金請求権(3500万円)と和解交渉資金として原告から預かっていた寄託金返還請求権(内2728万円)について債権差押命令(大阪地方裁判所平成11年(ル)第5324号。
乙16)を受け、同年12月28日には同債権転付命令(大阪地方裁判所平成11年(ヲ)第7661号。乙17)を受けるに至った。
被告Aとしては、営業譲渡代金については、同営業譲渡契約が正当な交渉権限取得のための手段として締結されたものにすぎず、本来支払う義務がないと認識していた(乙18)ものの、これを支払わなければ、原告・被告らのいずれもが新羅会館家族亭を失うことになるのではないかと危惧したため、原告に対する生活費の既払額500万円を控除した残額内金2728万円を支払い(乙20)、同差押に係る営業譲渡代金の未払金3200万円(35,000,0003,000,000、乙20)についても、株式会社整理回収機構に対し、1その即時一括支払義務があることを確認する、2この支払を担保するために、被告会社振出しの約束手形に被告Aとその妻が連帯保証の趣旨で裏書した上で同手形を交付する旨の確認書(乙19の1)を差し入れ、実際上も、平成12年7月6日、同約束手形合計32枚(額面合計3200万円)を同債権者に差し入れ(乙19の2)、現在も分割弁済を続けている。
また、被告Aは、これとは別に、原告の借入れに係る連帯保証(乙44)の結果、平成12年4月10日時点でも、未だ約1800万円の保証債務を大阪市信用保証協会に対し負担している(乙21)。
(7)他方、新羅会館家族亭の営業譲渡直後から、原告債権者が同店を頻繁に訪ねてくるようになり、原告の所在や同被告の権利関係を追及するようになった。
被告Aは、新羅会館家族亭を原告債権者から守るため、原告に対し、新羅会館家族亭に近づかないように忠告したことがあった(これに対し、原告は泉陽信用金庫に対する債務はなかったから、少なくとも同信用金庫が被告会社を訪問するはずがない旨を指摘するが、その前提が誤りであることは証拠(乙24の1)上、明らかである。)。
被告Aが、原告の意思に反して新羅会館家族亭の仕入業者を変更したこともあったが、同店の経営の合理化を図り、その収支状況を改善するための措置にほかならなかった。
また、自己の愛人を新羅会館家族亭に入れたいとの原告の要望を断る一方、被告Aの信頼できる人物(乙25、26)を新規に採用したこともあった。
これらの事情が重なったことから、原告が、被告Aに対し、同被告が新羅会館家族亭を乗っ取ったのではないかと邪推するようになった。
原告から被告Aに対する脅迫行為等が行われるようになり、その程度も次第に激しいものとなってきたため、原告に対する生活費の支給も、平成11年8月7日を最後に打ち切られることとなった(乙46の31)。
しかし、その後も、原告からは、外形上の契約のはずであった別紙「不動産売買契約書」記載の売買契約に基づき残代金として約4億8000万円を支払うように請求されたり(乙30)、被告Aを中傷するビラ(乙31。
少なくとも同被告は、原告の関与によるものと認識した。)が近所にまかれるなどの状況が続いていた
(8)原告・被告A間で本件の清算問題が話し合われた際に、被告Aとしては、清算すべき金員(原告のために、被告Aが立て替えた建物賃貸借契約の保証金3000万円、以前から負担していた連帯保証債務1800万円、前記(6)の債権差押命令を受けた後は、同差押に係る債権額も追加された。)や被告Aの招致に係る新規従業員に対する補償の支払があれば、新羅会館家族亭を原告に返還する旨を告げたことはあったが、原告からは支払ができない旨の返答があるにとどまり、解決には至らなかった。
それ故、原告のために既に多額の債務を負担していた被告Aとしては、新羅会館家族亭の経営を続けるしかなかった(なお、原告は、連帯保証債務は本件とは無関係である旨を指摘するが、被告Aとしては、原告との信頼関係が崩れ去った現時点においては、原告との関係をすべて清算しようと考えるのが通常であるから、格別不合理な行動とは解されない。)。
また、被告Aは、Bから、仲裁形式による和解案が提示されたこともあった(甲27)が、その具体的内容は、B自身を仲裁者とし、仲裁報酬として500万円もの大金を一括払いする、解決までの原告の生活費として月額100万円を被告会社が負担するなどという、被告ら側に一方的に不利な内容であり、被告らにとって公平な解決が到底望めないものであったため、原告側が直ちにこれを承諾した(甲49ないし51)のに比し、被告らがこれを受け容れることもなかった。
(9)以上の認定に対し、原告は、被告Aから欺罔されたことを基礎づける間接事実を主張し、これに沿う原告本人や証人Bの供述等がある。
しかし、次の点に照らすと、同人らの供述等はいずれも直ちに信用することができず、他に被告Aによる欺罔を認めるに足りる証拠はない。
ア原告は、別紙「営業譲渡契約書」記載の営業譲渡契約及び別紙「不動産売買契約書」記載の売買契約の締結という方法を被告A自身が決定した旨を主張する。
しかし、原告の債務整理の依頼を受けた被告Aは、まず最初に、破産手続を勧める公認会計士を原告に紹介したばかりか、原告による破産拒否の意思も尊重しており、原告の再度の依頼があった後も、Bの前に行政書士の有資格者を原告に紹介しているのであって、具体的方策の選択を原告の意思に委ねる趣旨であったことが窺われる。
原告主張の契約の締結も、原告自らがBを選択し、その法的なアドバイスに従った結果にすぎないから、原告の前記主張事実は認めるに足りない。
イ原告は、前記アの契約締結の前後において、被告Aの原告に対する言動が豹変したと主張する。
確かに、新羅会館家族亭の営業譲渡契約締結後も、原告をその新規従業員として雇用することが当初予定されていた等の事情があったことも窺われなくはない(乙7の1)。
しかし、前記認定のとおり、原告債権者が頻繁に新羅会館家族亭を訪問し、原告の行方を探索しており、原告に対する厳しい責任追及が現実化しつつある状況にあったのであるから、原告が新羅会館家族亭に関与し続けているかのような外観や印象を原告債権者に与えることは、新羅会館家族亭を原告債権者から守ろうとする原告・被告A間の経営委託契約の趣旨に反することは明らかであって、被告Aが原告に対し新羅会館家族亭に近づかないように忠告したとしても、そのことに合理的な理由もなく、被告Aの原告に対する言動が豹変したとはいえない。
仕入業者等の変更や自己の招致に係る従業員の新規採用の点も、原告の意向に一部反するところがあったとはいえ、新羅会館家族亭の存続のために、同店の経営を改善し合理化しようとした措置にすぎず、前記経営委託契約の趣旨にむしろ沿うものであるから、原告の前記主張事実をもってしても、被告Aによる欺罔を推認させるには足りない。
ウ原告は、被告Aが、原告からの申出にもかかわらず、債務整理解決後の報酬や新羅会館家族亭の返還方法についての文書作成を拒んだと主張する。
しかし、証拠となるべき文書を限定しようとしたのは、Bの発案によるものと認められる(乙7の1の12頁)ばかりか、少なくとも当初は存した原告・被告A間の強度の信頼関係に照らすと、報酬の約定に関する書面が作成されなかったとしても、必ずしも不自然であるとはいえない。
新羅会館家族亭の返還方法について文書を作成しなかった点も、原告の債務整理の全面的解決に至るまで長期間を要することが関係者に予定されており(Bの所信表明(甲27)上では、抜本的解決に至るまでは数年を要する覚悟が当事者に求められる旨の記載もみられる。)、同店の具体的な返還時期すら明確に定められるような状況にはなく、また、新羅会館家族亭の返還が、被告Aへの報酬や被告ら側の負担金の清算とも密接な関係を有する問題である以上、これを直ちに文書化することは困難であったというべきであるから、被告Aによる欺罔があったことの証左となるものではない。
エ原告は、被告Aが、平成11年6月末又は7月ころ、原告からの清算の申出に対し、「1億5000万円を支払え。」と理不尽な請求をしたと主張する。
確かに、原告・被告A間の本件の清算問題についての話し合いの際、被告Aが、原告に対し、新羅会館家族亭の返還条件として、清算金の支払を求めたことは認められるものの、1億5000万円もの金額を提示したとは直ちに認めるに足りない。
もっとも、同提示金額が少なくとも数千万円に達するものであったことは被告Aの自認する(乙27)ところでもあるが、前記認定のとおり、寄託金を含む限度では合理性に欠ける側面があったことは否定し得ないものの、同被告の要求に係る清算金の具体的な内訳を全体として考察すれば、一概に理不尽な請求とはいえないから、この点に関する被告Aの言動を捉えて、同被告による欺罔があったと推認するには足りない。
オ原告は、被告Aが、平成12年9月ころ、Bからの和解提案に対し、合理的な理由もなく、これを拒否し、原告代理人弁護士からの話し合いの呼びかけにも応じなかったと主張する。
しかし、Bの提案に係る仲裁方式による和解案(甲27)は、前記認定のとおり、被告らにとって一方的に不利な内容であり、また、単なるアドバイザーの立場にとどまらず、係争当事者の立場に立たされたB(B自身も、一時は原告の攻撃対象とされた結果、警察に届け出るなどの対応を取っていたほどであり、その所信表明(甲27)において、自己の損害賠償請求権さえ主張するに至っている。)に、もはや公平な解決を期待することができないと考え、これを拒否したことも無理からぬ側面がないわけではないから、同事実をもって、被告Aによる欺罔を推認するには足りない。
また、原告代理人弁護士からの話し合いの呼びかけというのも、被告Aによる欺罔を前提として同被告が原告に5000万円以上の大金を返還するという内容であり(甲9の1、2)、本件訴訟に至っても、同様の要求を繰り返すにすぎないのであるから、このような原告案を基礎とした解決は困難と考えた被告Aが、これに応じなかったとしても、同被告による欺罔を推認させるものではない。
カ原告は、被告Aが、原告の債務整理が終了していないにもかかわらず、原告及びBに対し、「仕事は終わった。」と発言したと主張する。
しかし、同事実を認めるに足りる証拠はなく、仮に同事実が認められたとしても、その発言内容はそれ自体極めて抽象的であって、(その信用性をひとまず措くとしても、)同発言を聞いたと供述するBすら、意味がわからない旨を自認している(同証人の証言調書18頁)のであるから、被告Aによる欺罔を推認させるものでもない。
キ原告は、被告Aが、新羅会館家族亭内に設置されたカラーコピー機のリース料を全く支払っていなかったと主張する。
しかし、同事実を認めるに足りる証拠はなく、仮に同事実が認められたとしても、不払の理由には種々のものが考えられるのであるから、被告Aによる欺罔を直ちに推認させるものでもない。
2(1)争点1(被告Aの行為の違法性及び被告会社の法律上の原因の有無(被告Aの原告に対する詐欺))について
前記1認定の事実によれば、被告Aは、原告からの再三の依頼に基づいて、原告をその債権者の責任追及からかばい、有利な和解交渉を図るために、Bのアドバイスに従い、正当な交渉権限を取得すべく不動産売買契約及び営業譲渡契約の締結という形式を採りつつ、原告との間で、経営委託契約を締結しようとしたものにすぎず、同被告による原告に対する欺罔があったとは認めるに足りない。
この点に関する原告の主張は、その前提を欠き、採用することができない。
したがって、原告の被告Aに対する損害賠償請求(請求の第1項)については違法性の要件を欠き、また、原告の被告会社に対する不当利得返還請求(請求の第2項)については法律上の原因の不存在の要件を欠くことに帰するから、争点2、3について判断するまでもなく、前記各請求はいずれも理由がない。
(2)争点4(商号使用差止めの可否)について
前記1認定の事実のほか、証拠(後掲各書証、証人B、被告A)によれば、被告会社が、「新羅会館」のほか、(「大榮ハウス株式会社」、「株式会社日栄電気工業分室」と並び)「新羅会館家族亭(宗右衛門町本店)」と記載された看板を掲げ(乙13の1、2)、同様の挨拶状(乙14の1、2)を作成交付した事実は認められる。
しかし、被告会社が新羅会館家族亭の商号を使用することは、Bのアドバイスに従い、原告との協議に基づき、当初から予定されていたことであり(別紙「営業譲渡契約書」(甲8)上も、原告が新羅会館家族亭の商号を放棄することが約されており、原告による同商号の続用は予定されていなかった。)、Bへの商号譲渡も被告会社の商号変更を回避するための便法にすぎなかったから、被告会社がこれらの商号を使用している(甲24の1ないし9、25、26)としても、詐欺を理由とする取消しの効果が生じていない以上、原告・被告会社間の経営委託契約も未だ存続しており、被告会社による前記各商号の使用も同契約に基づくものというべきであるから、被告会社に「不正ノ競争ノ目的」(商法20条1項本文)があるとはいえない。
同条2項によれば、同市町村内において同一の営業のために他人の登記した商号を使用する者は不正の競争の目的をもって使用するものと推定されるが、上記事実によれば、この推定は覆るものというべきである。
この点に関する原告の主張も採用することができない。

第4結論

以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

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